問題はすでに指摘されていた!......20年あまり前のオンエアーされた映像
―NHKスペシャル 今原子力を問う(2)より
原子力は安いエネルギーか?
前・高知県知事 橋本大二郎氏(若い!)がNHKキャスター であった頃の番組で、いまや隔世の感があるとはいうものの、こと 原発問題 については、今問題になっていることのすべての本質的なことが出揃っていると言える。
原発は安い というのが実はそうではなく、生産コストの面からみても高くつくこと、さらにそのコストが日本の場合は 消費者の支払う電気料金にハネ返ってくることなどが的確に指摘されている。現在の電気料金と、料金体系とを比べ検証していく貴重な映像資料となっている。 冒頭は少々画面が乱れます。part 1 (→part 4)
電力需要のカラクリについて-1
社会問題になっている電力会社の「原発再稼働」と「電力需要見通し」について考えてみたい。
日本のエネルギー政策を担う電力会社の特殊事情として「電気は貯めることができない」という電気のもつ性質にある。
他の多くの製造会社は「需要と供給」との関係において、その生産品は機械や部品や材料であり「備蓄」ができ「生産効率」を見ながら「計画生産」し「生産コスト」の調整を行っている。例えば事故などで生産が停止したとしても「備蓄」があるために、すぐに生産品を供給できないということにはならない。
しかし電力は「備蓄」できないため「停止」は即「供給停止」「停電」になるのである。
ここに「原発再稼働」と「電力需要見通し」のカラクリがある。
単に電力供給できないから原発を再稼働させたいということだけではないのだ。
電力需要のカラクリについて-2
「政府や電力各社が訴えてきた「30%の基幹電源」は、原発なしでは電力の安定供給ができないかのような印象を与えてきたが、30%は発電実績を示しているにすぎない。電力各社が持つ発電能力(設備容量)の30%を原発が占めているとも取られかねないが、そうではなかった。」
との指摘のとおり「30%の基幹電源の原発が停止すれば停電する」は実証的に「嘘」であった。
「資源エネルギー庁のデータによると、国内の10電力を合わせた電源別の設備容量(ことし2月)は、火力が全体の60.4%と圧倒的に多く、原子力22.3%、水力17.1%と続く。設備的には水力と大差ないのに発電量が全体の30%になるのは、原発をできるだけフル稼働させ、その分、火力発電所などを調整用として使ってきたからだ。」
では何故、「30%の基幹電源」の原発が全て停止しても「停電」は起こらなかったか?
それは「電気は備蓄できない」ため「予備電源設備」が必ず用意されているからだ。
だからこそ電力会社は「火力、原子力、水力」に電源を分散させ「需要と供給」に対応してきた。
原発が全て停止しても「電力供給」できるのに、電力会社は何故「再稼働」が声高に叫ぶのかにはカラクリがある。
電力需要のカラクリについて-3
電力会社が電力を生み出す指標として発電方式別の「発電単価」と「設備利用率」がある。
発電方式別の発電原価試算結果(1kWh当たりの発電費用)
発電方式 発電単価(円/kWh) 設備利用率(%)
水力 8.2~13.3 45
火力(石油) 10.0~17.3 30~80
(LNG ) 5.8~7.1 60~80
(石炭 ) 5.0~6.5 70~80
原子力 4.8~6.2 70~85
太陽光 46 12
風力 10~14 20
注)設備利用率(%)=1年間の発電電力量/(定格出力×1年間の稼働時間×100%)使用データ:経済産業省、エネルギー白書 2008年版(2008)
電力会社は、この決められた「発電単価」と「設備利用率」を見ながら、発電方式を選んで発電し電力を供給している。
上記試算では「原子力発電」が最も「発電単価」が安価である。
しかし本来「発電単価」は「設備利用率」によって左右されるのであって
「利用率が低ければ単価は高くなる」
「利用率が高ければ単価は低くなる」のは当然だ。
これまでは「原子力発電」の「発電単価」が安価だったのは「設備利用率」を任意に高くしていたためであり
「原子力発電が停止すれば発電単価が上がる」かもしれないが
「発電単価が上がるから原子力発電の再稼働が必要だ」
というのにはカラクリがある。
電力需要のカラクリについて-4
電力会社にとっては「原子力発電が最も発電単価が安価」でなくてはならないのである。
これまで「原子力発電の主な長所は、供給安定性が良い、経済性が良い、二酸化炭素がほとんど出ない。」
ということで国と電力会社は「官、産、学共同体」によって原子力発電の推進を行ってきた。
原子力発電は二酸化炭素がほとんど出ない「クリ―エネルギー」であり「最も発電単価が安い」が最大のアピールポイントであった。
国と電力会社は国民や立地自治体に対して、原子力発電は「安全」であり「クリーン」であり「安い」ということで説明し説得してきたはずだ。
そして国は原子力発電を増大させる方向で将来の電力生産を計画してきた。
「原子力発電推進行動計画は、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会の審議・検討を踏まえ、2010年6月に公表されました。
概要は以下のとおりです。
・原子力は、供給安定性と経済性に優れた低炭素電源であり、基幹電源として利用を
着実に推進
・原子力発電所の新増設を、2020年までに9基、2030年までに、少なくとも14基以上
・設備利用率を、2020年までに約85%、2030年までに約90%」-引用-
だからどうしても電力会社は原子力発電が「最も発電単価が安い」ことを実証するために「原子力発電の設備利用率」を高くし、原子力発電をフルに稼働しなければならないのだ。
その原子力発電推進行動計画に沿って国の方針である「新・国家エネルギー戦略」で明記されている「電力需要見通し」に対して「電力供給見通し」を試算している。
電力会社は必ず「電力需要見通し」の発電能力を備え「電力供給」する。
さらに電力は「備蓄」できないため発電能力は「電力需要見通し」に対して十分な余裕をもっているのである。
電力会社は原子力発電を「基幹電源」にして「設備利用率」を高くしなくてはならないカラクリがここにある。そしてそれは電力会社の「存亡」にかかわる事項なのである。
電力需要のカラクリについて-5
電力の経済性の指標として重要なのは「電源別発電単価」である。
しかしその「発電単価」には諸説がある。
-資源エネルギー庁による電源別発電単価の試算-
電源 従来の試算単価(単位:円/Kwh) 99年見直しによる単価
電源 |
単価 |
出力 |
設備利用率 |
運転年数 |
一般水力 |
13.6 |
1.5万Kw |
45% |
40年 |
石油火力 |
10.2 |
40万Kw |
80% |
40年 |
石炭火力 |
6.5 |
90万Kw |
80% |
40年 |
LNG火力 |
6.4 |
150万KW |
80% |
40年 |
原子力 |
5.9 |
130万Kw |
80% |
40年 |
-原子炉設置許可申請書に記載された発電源単価(単位:円/Kwh)-
電力会社 |
原発名 |
運転開始年 |
発電単価 |
北海道電力 |
泊2号 |
91年 |
14.3 |
東北電力 |
女川2号 |
95年 |
12.3 |
東京電力 |
柏崎刈羽2号 |
90年 |
17.7 |
|
柏崎刈羽3号 |
93年 |
13.9 |
|
柏崎刈羽4号 |
94年 |
14.2 |
|
柏崎刈羽5号 |
90年 |
19.7 |
中部電力 |
浜岡4号 |
93年 |
13.8 |
北陸電力 |
志賀 |
93年 |
16.5 |
関西電力 |
大飯3号 |
91年 |
14.2 |
|
大飯4号 |
93年 |
8.9 |
四国電力 |
伊方3号 |
94年 |
15.0 |
九州電力 |
玄海3号 |
94年 |
14.7 |
政府・エネルギー環境会議の試算によると発電単価16~20円/Kwh(2011/8/23 電気新聞)
原子力発電の発電単価が最も安いわけではないのに、どうして原子力発電を「基幹電源」にする発電の仕方をするのか。
それは原子力発電の宿命的な性格が原因である。原子力発電は、低い出力での運転や細かく出力を上げ下げ(出力調整)すると不安定で制御が難しくなり、出力調整すると事故の危険がそれだけ増える。
さらに原子力発電は、他の発電設備に比べて莫大な建設費がかかっている。
このため他の発電設備に比べて、コストに占める燃料費の割合が小さいので、いったん造ってしまった以上、他の発電所は遊ばしてでも、原子力発電をフルに稼働さないと採算が合わないのだ。
「電力需要」よりも「原子力発電の再稼働」は電力会社の「採算性」にカラクリがある。
採算性といっても、電力会社は地域独占で競争がないし「総括原価方式」(コスト×報酬(もうけ)率=電力料金)によって利益は守られていて、一般企業の本来の「採算性」と「経済性」を追求した経済活動とは違いがある。
しかし今後、原子力発電が全く発電できなければ既存の原子力発電所は一気に「資産」から「負債」になってしまう。原子力発電が電力会社の「資産」で在り続けるためには、原子力発電は稼働し続けなければならない。
電力需要のカラクリについて-6
発電所は発電してこそ「資産」であり続けるが、発電しなければ「負債」になってしまう。
さらに原子力発電所は廃炉になったとしても、以降膨大なコストがかかる。
2002.3.31.の朝日新聞の「原発の後処理」費用、30兆円にも 電事連の長期試算で」-引用
-原子力発電所の廃炉コスト-
新型転換炉実証炉「ふげん」(敦賀市・16.5万kW)の試算は
1.解体費用 |
約300億円 |
2.伴って生じる廃棄物の処分 |
約400億円 |
3.施設撤去までの維持費 |
約数百億円 |
4.運転中に出た低レベル放射性廃棄物の処分 |
約140億円 |
費用総額 約千数百億円 |
さらに原子炉建設の際の漁業補償金、原子力に特有な再処理費用、1kWhあたり1 - 2円の燃料費等のバックエンドコストは含んでいるが、電源三法による地元への交付金 (税金)、電力企業からの地元対策寄付金、原子炉廃炉解体費用、原発事故の際の賠償金等がある。
-次の表は原子力発電にかかる費用の内訳を記したものだ。-
-次の表は原子力発電にかかる費用の内訳を記したものだ。-
発電の費用 |
||||
①発電に直接要する費用(燃料費、減価償却費、保守費用等) |
料金原価に算入 |
|||
②バックエンド費用 |
使用済燃料再処理費用 |
原子力に固有の費用 |
||
放射性廃棄物処理費用 |
低レベル放射性廃棄物処理費用 |
|||
高レベル放射性廃棄物処理費用 |
||||
TRU廃棄物処理費用 |
||||
廃炉費用 |
解体費用 |
|||
解体廃棄物処理費用 |
||||
③国家からの資金投入(財政支出:開発費用、立地費用) |
一般会計、エネルギー 特会から |
|||
④事故に伴う被害と被害補償費用 |
原子力発電は莫大。料金原価には不十分にしか反映されていない 福島第一原発の被害費用は数兆円規模といわれる。 |
-これまでの全国の原子力発電所の建設費用は約13兆円。-
-【一般家庭の原子力関係負担】日本は世界一電気料金が高い-
電源開発促進税 |
112 円 |
使用済み核燃料再処理 |
66 円 |
高レベル廃棄物処分費 |
22 円 |
解体処分費 |
19 円 |
月額 計 |
(0.75 円/kwh)219 円 |
原子力発電所は一気に「資産」から「負債」になってしまうならば電力会社の存続も怪しくなる。
「電力需要」よりも「原子力発電の再稼働」は「電力会社の存続の危機」と「日本のエネルギー政策の危機」に関わっているというカラクリがある。
電力需要のカラクリについて-7
「原子力発電の再稼働」は「電力需要」と「電力不足」からだけで見ることはできない。
これまでの「原子力発電推進行動計画」や、国の方針である「新・国家エネルギー戦略」のなかで
今後の「原子力政策」が「どうあるべきか?」を決めない限り、また同じ過ちを繰り返すことになる。
「原子力」には何十兆円もの利権があり「原子力むら」というより「政財界」「官、産、学共同体」を巻き込んだ「原子力国家共同体」ともいうべき、日本国家の「エネルギー政策」の根幹である。
今後の方策を誤れば「国家の危機」さえも招く事態が考えられる。
「原子力発電の再稼働」は一民間の電力会社の責任だけでは解決できる問題ではない。
さらに「再生可能エネルギー政策」とも関連しているのであって、この問題から避けるならば「世界のエネルギー覇権競争」から遅れをとり「世界から取り残された国家」として日本の未来は暗い。
なら今後の日本国家の「エネルギー政策」はどうあるべきなのか考えなくてはならない。
これまでは「再生可能エネルギー推進」と「原子力発電」とは「競合関係」にあったといえる。
「原子力発電の再稼働」を含め「電力生産設備の再編成」や「電力線ネットワーク」を考えるには良い時期が来たのかもしれない。
「電力会社の地域独占」や「発送電分離」や「将来のエネルギー政策」を変えるには今しかない。
さらに「超縮小化社会」に突入していく日本に於いて「右肩上がり」の「間違った政策」を続けていくことは出来ないところまで追い込まれているという「危機感」をもつ。
電力需要のカラクリの一端を明らかにしたいま、「再生可能エネルギー推進」へと舵を切り直し「世界に誇れる日本」と「日本独自の技術開発」による「再生可能エネルギー推進」を計っていかなければならない。
(完)